今日、会社でちょっとしたドラマがありました。
ドラマというほど大袈裟ではないかもしれませんが、
他部署の上司(イギリス人)と私の部署の同僚が
言い合いしている場に居合わせたのです。
3人で会議をしていたのですが、
同僚の女性は、
その上司の奔放な勤務態度に耐えかねていたこともあり、
議論が白熱して、言い合いみたいになっていました。
最初に事情を説明させていただくと、
その上司は1年くらい前に入社した人で、
ロンドンから120kmくらい離れたところに住んでいて、
何かあると、すぐに「家から働く」と連絡を入れて、
会社に来ません。
携帯に電話をかければ通じますが、
オフィスにいるときのように
四六時中PCの前にいるわけではないようです。
というのも、
こんな話をよく聞いていたからです。
「昨日は Work from home(自宅勤務)だったんだ。
明日、息子がテストを受けるから、
自分がいないと勉強をサボるからね」
「昨日は Work from home したんだ。
息子が修学旅行から帰ってくる日だったから、
迎えに行かなくちゃならなくてね」
平然と、悪びれもせずに、
こんなことを言っているので、
「家で働いている」と言っても、
適当に抜け出しているだな、と思っていました。
とはいえ、毎週月曜に自宅勤務、
みたいに決まっているのであれば良いのですが、
急に会社に来ないのは、とても困ります。
私たちは違う部署で働いていますが、
その上司の承認を貰う必要があることが多いので、
至急案件が出てきたときなど
彼のサインが貰えないおかげでプロジェクトが遅れたりして、
とても困るのです。
しかも、朝に「今日は自宅勤務」と言われて、
「明日は来るだろう」と思って待っていても、
翌朝も「今日も自宅勤務」などと連絡が入ることが
しばしばあります。
でも、彼の部下たちは、
ときに「ほんと、あの人は仕事をしていない」
とこぼしたりはしていますが、
「仕方ないな」と思っているようで、
誰も何も言いません。
それはそうですよね。
だって、部下の昇進を決めるのは上司なのですから、
自分の印象を悪くするようなことを上司に言うのは
愚の骨頂ですから・・・
ところが、私の同僚は違います。
気が強いこともありますが、
彼女の昇進には全く関与しない上司だったので、
会議のときに、自宅勤務が話題になったときに、
ストレートに、こう言いました。
「Aさんは自宅勤務が多いですけれど、
あれって、結構困るんですよね。
出勤してくる日だって、
朝の9時に出勤したことがないじゃないですか。
急いで承認を得たいときなど、
とても困るので、
毎週 X曜日は自宅勤務といったように
計画的にすることはできないのですか?」
すると、彼はこう言いました。
「僕は遠くに住んでいるし、
子供が2人いるシングルファーザーだから、
フレキシブルにさせてもらってるんだよ」
「でも、うちの会社って
フレックスタイム制じゃないですよね?」
「だから、5時以降に残業してカバーしてるよ」
「でも、私の部の上司は厳しくて、
9時に出勤しないと遅刻扱いですよ?」
「その辺は、上司の采配によるよね」
「その点が不公平というか、不思議なんですけれど、
Aさんの契約ってフレックス制とか
自宅勤務が許されているわけなんですか?」
「そういうわけじゃないけれど、
僕は120km離れたところに住んでいるから・・・」
「でも、それって入社前に分かっていたことですよね?
うちの会社は、9時から5時まで働く人を探していて、
それを承知で入社したんですよね?
もともと9時に来れないと分かっているなら
ロンドンじゃなくて、
地元の会社に勤めればいいじゃないですか?」
「僕は何年もロンドンで働いていたから・・・」
「それって、うちを選ぶのに関係ないですよね?
フレックス制のある会社を選べばいいわけですから。
会社が求める内容で働けないことが分かっていて、
そのことを言わずに、入社したってことですか?」
「僕は妻を亡くして、子供が2人いて・・・」
「でも、シングルマザーの人だって多いし、
そういう人たちも、頑張って定時まで働くか、
給料が低くなることを承知で時短するか、
出世できないことを承知で、
週に1日だけ自宅勤務とかにしていますよね?」
「それに、お子さんがいて面倒を見なくちゃならなくて、
ロンドンで9時から5時まで働けないのであれば、
最初から、会社にそう言うべきだと思います。
そう言ったら採用に響くとは思いますが、
採用に響くということは、
会社はそういう人材を求めていないってことじゃないですか?
それなのに、実際にできもしないことを『できる』と言って、
入社したってことですか?
入社の契約書に書いてあることを遵守するのは、
当然のことだと思っていましたけど、
そんなつもりはなかったということですか?」
ここまで会話が続いたときに、
とうとう上司は黙りました。
おそらく、
これ以上話してもムダだと思ったのだと思います。
この会話の最中、
ピンと張りつめた状況でした。
正直なところ、私も同僚と同意見ですが、
何も言えませんでした。
でも、「妻が亡くなって」と言い出したときに、
その上司の顔に、
印籠を出したときの水戸黄門のような、
「これで、お前は当然黙るだろう」とでも言いたげな、
満足そうな笑顔をしていることに気づき、
少し不快に感じました。
きっと、これが彼の「伝家の宝刀」なのだと思います。
イギリス人は品良く見られたい人が多いこともあり、
こういうことを言われたら、
仮に、心の底で「それって、関係ないじゃん?」と思っていたとしても、
みんながみんな、彼に同情するか、
同情したフリをすると思います。
つまり、相手が同情することを狙って、
大目に見てくれることを分かっていて、
あえて言ったように思えたのです。
おそらく、これまではこれを言ったら
100%の確率で「お気の毒に」という言葉が出てきて、
相手の怒りを鎮めることができたのでしょう。
(冷水を浴びせて鎮めるようなものですが・・・)
しかし、同僚の女性は
そんなことは意に介さず、
「お気の毒に」と口にするどころか、
「あ、そうなんですか」と受け流して、
畳みかけるように、ねじ伏せていました。
そして、亡くなった妻のことを持ち出しても
ちっともトーンが変わらない同僚を見て、
その上司は、一瞬あっけにとられていました。
水戸黄門の穏やかな笑顔が
一瞬消えたのを見て、失礼ながら、
つい、笑いそうになってしまったくらいです。
まぁ、ここで同情しないのも、
「それはそれでどうかな?」
という気がしなくもありませんが・・・
でも、人それぞれ事情があって
辛いのは彼だけではないと思うので、
こういうビジネスの場で「妻の死」を持ち出すのは、
ちょっとズルいような気もします。
とはいえ、実際問題として
2人の子供を育てていたら大変だと思うので、
彼が真面目に働いていない(働けない)理由も分かります。
でも、仮に私がその立場なら、
嘘をついて高い給料の職を得るよりも、
最低限暮らしていける給料でいいから、
会社の裏をかくようなことはせず、
そういう状況の私を受け入れてくれる会社を探すと思います。
と言いますのも、
嘘をついて入社できたとしても、
働いているうちに後ろめたくなってきて
気持ちよく働けないと思うからです。
うまくお伝えすることができず、
もどかしいのですが、
こういう問題って「正解」がないような気がして、
私には難しすぎます。
彼が自分の事情を偽って入社したことは
おそらく事実なのでしょう。
そして、仮に彼女のように厳格な人が彼の上司だったら、
彼は契約通りに働いていないのだから、
試用期間中に解雇を言い渡されていたかもしれません。
もしくは、皆がそう思っていたのに、
「がんばっているシングルファーザー」という肩書が
同情を集めるのに役立って、
解雇されなかったのかもしれません。
シングルファーザー、
しかも離婚ではなく死別であるところが、
普通のシングルマザーと違って、
同情を集めるのでしょうし、
実際に、私もそれを聞いたときに
「お気の毒に・・」と口にしそうになりました。
でも、冷静に話し続ける同僚の声を聞いていたら、
なんだか、これって水戸黄門の印籠みたいだな、
とも思えてきたのです。
皆さんは、どう思われます?
私の同僚が冷たいのでしょうか?
それとも、あの上司が甘えているのでしょうか?
私には、判断がつきません・・・
しかし、こんな言い合いをしても、
結局、何も変わらない(彼は会社に来ないまま)わけで、
ある意味、不毛な言い合いだったような気もします。
同僚は「言いたいことは言ったわ」と
スッキリした表情だったので、
不毛というほどでもないのかもしれませんが、
この言い合いがもとで、
後日モメたりしないか?ということも心配です。
こちらは、先日同僚と食事に行ったときに出た
デザートです。
スティッキートフィーなのですが、
甘すぎて・・・ 食べるのが辛かったです(苦笑)
この記事へのコメント
たま
大夫の監
あまりイチイ様の御サイトに書くと、イチイ様のストレスを増やしそうで、申し訳なく思っております。すみません。
イギリスという異文化での生活が面白くて。つい書いてしまいます。
さて、子育てですが。わたくしに子は無いのですが、
親戚の子と一緒に過ごした時期があります。そのときにえらく疲れまして。母も疲労困憊しましたので、長くは続かなかったのですが。
子供を水戸黄門の印籠がわりにするのはずるいとおもいますし、まして、伝家の宝刀と勘違いするようでは、女性から叩かれても仕方ないとは思います。
けれども、男は基本的にオス猫と同じですから、あまり、スケジュールをきめられてしまうと持たないですね。
たとえば、学生の頃は女性は先生の言葉とか、黒板の文字を逐一漏らさずノートにとりますが。男子の思考回路は「要するに何なんだ。」と考えてしまい。ノートに記録するのは苦手です。
ママ達だって大変なのよ。と叱られそうですが。2人の子供がいたら、かなりしんどいだろうなと思いました。
勿論、同僚の女性が反駁なさったように、それは最初からわかっている事なので、自宅の近所で求職しなかった彼が悪いのだと思います。
けれどもやっぱり男女の差とはわりと大きいような気もします。
その場にわたくしがいたら、黙ってしまうと思います。
子供は少し目を離すと危険な事しますし。子供には子供なりの好みがありまして。以前に好きだった歌を歌ってみせると「嫌嫌」をすることもあって。それはもう疲れたものですから…
ヒバリ
いつも閲覧のみでしたが、初めてコメントさせていただきます。
私は同僚さんのご意見は至極もっともだと思います。
かく言う私も実家のサポート皆無のフルタイム勤務シングルマザーですが
子供を一人で育てていることと仕事は別問題であって、家庭が原因で職場に何らかの弊害をもたらすような勤務体系はそもそも選択すべきではありません。
その上司は部下もおりプロジェクトの采配を握る立場であるとのこと、現状のような働き方でそのポストにいるのは現実的ではないと思います。
上司がやっていることはイチイさんの仰るとおり「死別シングルファザー」を印籠に使った「美味しいとこ取り」です。
子供がいるから職場に迷惑かけても仕方ない、と言うのは当人が言うことではありません。
迷惑をかけないようにするにはどうしたら良いかを念頭に、先回りして体制を整え、それでも支障が生じた場合は真摯に謝罪し迅速にフォローすることで、勤め人として初めて周りの方と同じラインに立てるのではないでしょうか。
アラフィフの派遣
ただ、このシングル ファーザーさんが「あまり会社に来ないけど、仕事ははやい」とか「期待以上のパフォーマンス」があるなら、同僚のかたもそこまで強く言わなかったのではないでしょうか。
同僚のかたも承認や仕事が遅れないなら、勤怠のことまでは言わなかったのではないでしょうか。(時間はシングルなら仕方ないこともあるよね、ってなるのでは。)
つまりシングル ファーザーさんの詰めがあまいです。責められる隙がありましたね。
もう10年以上も勤めている人が、ある日奥様をなくして、だから会社を不在にしがちになって・・・ということなら、まわりも「お気の毒に」と言って仕事が追いつけるようになるまで見守ってくれるでしょうが、そうじゃないですもんね。
ただ、仕事を得たいために嘘をついてしまう気持ちは、わからなくはない・・・ないけど、部下を困らせていいわけじゃないです。
ミルモ
言われてる事はもっともだしね、言われてる方は、一人で子育てして働いてるしって思ってるしね。個人的な感情も入って言っちゃったのね。でも常識で考えたら、シングルだから仕方ないとかはダメですね。よく解雇とかされないね?イチイさんの会社は不思議さんが多いような?後々もめないと良いけどね。イチイさんはよらないよ、火の粉が降りかかったら大変だしね。・・・またね。
同僚さんはともかく、イチイさんはお家も買っちゃったことだし、職場では波風たてないで、事務的に淡々と対応されたらよいのでは?
ペンギン
どういう選択肢でも子供を育てるのは大変ですが、彼の様にそのために特別扱いが当然と言うのはどうなのでしょうね。
イチイ
おっしゃるとおり、上司がいい加減なだけあって、部下も9時に出勤してくるのは1人だけです。彼が入社するまでは、割とみんな9時に出勤していたのに、上司がいないから&誰も注意しないから、いつの間には9時半くらいにならないと出社してこなくなりました。そうなるのも仕方ないな、と思います。
イチイ
私も子育ての経験がないので、よく分かりませんが・・・ただ、さっきブログに書いたとおり、子供の一人が18歳らしいです。シングルファーザーであることは事実ですが、そろそろ子離れしてもいい頃なのではないかとも思います。
イチイ
私も、彼の子供の年齢を知って、同僚の言うことは尤もだと思いました。18歳だったとは、驚きました。
サポートなしのフルタイム勤務シングルマザーですと、きっと色々なご苦労をしながら頑張ってこられたのでしょうね。そういう方のおっしゃることは説得力がありますね。ヒバリさんのおっしゃるとおり、本人が努力していて、それでもどうしても迷惑がかかってしまうような状況だったら、こちらも全力でサポートする気持ちになるのですが、なんとなくそういう気持ちになれないのは、やはり彼が美味しいとこどりしているからなのでしょうね。
イチイ
あの上司は「すぐに仕事を人に振る」、「頼んだことを最後までフォローしてくれない」ということで有名です。上の立場なので細かいた仕事をする必要はないと思いますが、そういうことではなくて、部下に依頼した仕事の締め切り管理などもしないので、仕事を丸投げして自分だけ楽をしているように見えてしまいます。
責められる隙と言いますか、お子さんの1人は18歳らしいです。それって子供なのかな?と突っ込みたくなりました。「妻が亡くなって」の殺し文句を出されると、人はそれ以上プライベートに立ち入ったことは聞きずらくなりますよね。だから、子供の年齢を知らない人が多いのだと思います。
イチイ
つかず離れずの適当な距離を取っていますが、すぐに顔に出てしまうタイプなので、難しいです。
おっしゃるとおり、常識的にシングルだから勤怠がいい加減でも仕方ないと思うのは間違っていると思います。本当に、うちの会社は不思議な人が多いです。と言いますか、仕事が出来る人はすぐに辞めて(転職して)いくので、そういう人ばかりが残っていると言ったほうがいいのかもしれません。
イチイ
こちらとしては代理署名でも良いのですが、次席の人に頼んでもサインするのを嫌がられてしまうのです。最初は、責任を取りたくないのだと思っていましたが、実際には代理署名をするとその上司が嫌な顔をするそうです。自分の思い通りにしたい、でも会社には来ない、という状況で、部下の人たちも困っていました。
おっしゃるとおり、できるだけ関わらず、波風立てずに気を付けるようにしますね。
イチイ
子育てが終わってから声をかけてもらえるなんて、よほど優秀なのでしょうね。素晴らしいと思います。
私は子育てをしたことがないので分かりませんが、シングルマザーの人たちが、他の人に迷惑をかけないよう頑張っている姿を見ているので、この上司が優遇されているのは不公平な気がしてしまいました。私がどうこうできる問題ではないのですが、18歳の子供をタテにしていることを知って、余計にズルい人だなと思ってしまいました。