ケンウッドハウスの絵画

実は、先日ケンウッドハウスに行ったときに
この絵の説明をしてもらいました。

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ケンウッドハウスには何度も足を運んでいましたが、
ごく普通の牛の絵なので、
この絵を気に留めたことはありませんでした。

でも、ガイドさんのお話を聞いたら、
こんな何の変哲もない風景画が、
一転して興味をそそられる絵画になりました。

同じものでも、視点といいますか、
見る「目」を変えると全然違うものに感じられるのは
不思議なものですね。



この絵は、18世紀に活躍したイギリスの風景画家
Julius Caesar Ibbetson(ジュリアス・シーザー・イベットソン、
1759~1817)が描いたものです。

ちなみに、日本語では彼のことを「イベットソン」と言うようですが、
発音を聞く限り「アイベットソン」が正しいような気がします。

『I』 が「イ」じゃなくて「アイ」になるところが
イギリス英語らしいですよね。


さて、イベットソンはケンウッドハウスの内装を手掛けるために
この屋敷に滞在していたことがあり、
その際に伯爵夫人からの依頼を受けて、
この絵を描いたそうです。

実際のところは、イベットソンがデザインした内装が
屋敷に施されることはなかったそうですが
滞在中にいくつかの風景画を残しています。


そして、この絵のタイトルは、
「Three Long-Horned Cattle in Landscape 」
(三頭の長角牛のいる風景)と言います。

そのままズバリのタイトルで、
タイトルだけを見たら
月並みな絵に思えますよね。

でも、私が教えてもらったお話を少し紹介させてください。


実は、18世紀のイギリスでは、
貴族が敷地内に牛や羊を飼って、
出来たての新鮮なチーズやバターを食べることが
ステイタスのひとつとして、流行していたそうです。

晩餐会やアフタヌーンティーなどで、
自家製チーズやミルクなどを振舞ったり
家畜の群れが放牧されている広大な土地が
富の象徴のひとつでもあったのかもしれませんね。


そして、そうした乳製品を作る仕事は、
館の女主人に任されており、
常に美味しくて新鮮な乳製品を提供することが、
女主人としての重要な仕事のひとつだったそうです。

「どこそこのお屋敷のチーズが素晴らしい」
などといったことが人々の口にのぼることあったらしく、
優秀な家畜の飼育と美味しい乳製品を作ることが、
女主人の腕の見せ所でもあったようです。

そんな時代でしたので、
ケンウッドハウスでも家畜が飼われて、
乳製品を作るための施設、
ミルク小屋(Dairy House)が建てられました。

そして、マンスフィールド伯爵夫人は、
現代では見かけることのない、
立派な角をもった乳牛を取り寄せて、
敷地内で飼育させていたそうです。

こちらの絵をよ~くみると、
灰色の丸い飾りのようなものが見えませんか?

この牛は角が立派に育ちすぎると、
カーブした角の先が牛の顔を傷つけることがあるため、
それを防ぐために丸いボールを角の先端につけたのだそうです。

なんだか、ピアスみたいで可愛いですよね。

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そして、牛の背景に描かれている建物が、
ケンウッドハウスのミルク小屋(Dairy House)です。

マンスフィールド伯爵家では、
ミルク作りのためだけに女性を雇い入れて、
彼女に乳製品を作らせていたそうです。

背景には3つの小屋が描かれていますが、
向かって左側の小屋には、
ミルク作り専門の使用人である
Dairymaid(デイリーメイド)が
住んでいたそうです。

そして、この小屋の一角には
伯爵夫人のためのティールームも
設けられているそうです。

このティールームでは伯爵夫人が友人を招いて
アフタヌーンティーを楽しんでいたそうです。


真ん中の小屋は地下室のある貯蔵庫で、
地下室は氷室として利用されていたそうです。

乳製品は痛みやすいので、
作った乳製品は、
この地下の氷室に蓄えられていたのです。

そして、右側の小屋が乳製品を作る作業場です。


「ミルク小屋」と聞くと、
私はハイジの世界と言いますか、
藁ぶき屋根の小屋を思い浮かべてしまいますが、
18世紀のロンドンのミルク小屋は
上品な白亜の建物だったようです。



この3軒並んだミルク小屋は、
第二代マンスフィールド伯爵夫人ルイーズの希望で
1794~1976年にかけて作られたものです。

残念ながら普段は閉鎖していて、
1ヶ月に1日だけ一般公開しているそうです。

せっかくこんなお話を聞いたので、
是非とも公開している日に行って、
ミルク小屋の様子を見てきたいと思います。


ところで、先日お話をした、
貴族と黒人奴隷の混血であるダイド・ベルのことを
覚えてらっしゃいますでしょうか。

乳製品づくりは館の女主人の仕事だと言いましたが、
彼女がケンウッドハウスに住んでいたときには
彼女が乳製品作り担当だったそうです。

ダイド・ベルは伯爵の仕事を手伝うだけでなく、
本来であれば館の女主人に任されるような
重要な仕事も任されていたわけです。

ダイド・ベルには姉妹のように育った
エリザベスという従妹もいたのですが、
彼女ではなくダイド・ベルに任されていたことからも
伯爵夫妻からの信頼が厚かったことがうかがえます。

ダイド・ベルについては、こちらに書いています ↓
http://yewtree.seesaa.net/article/445525068.html


絵画一枚にも、いろんな物語があって、
とても面白いと思います。

見落としたり、
気に留めずに通り過ぎてしまうような絵にも
いろんなエピソードがあって興味深いです。


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